「ワンタンメンとネギ塩ラーメンだよ。」
「美味しそー!」
「ありがとうございます。」

 こういう切り替えが、確かに相島は上手い。きちんとお礼は言うし、食べ方も綺麗。煙草も吸いそうな見た目だが吸わないし、きつすぎない程度には香水の匂いが香る。

「…相島さんはさーいかにもモテますって感じだよね。」
「それをお前が言うのかよ。」
「え?」
「俺から言わせてもらえば、お前もいかにもモテますって感じだけど。」
「モテるかもしれないけど、長続きしないもん。」
「だから、男の趣味が悪いからだっつってんだろ。」
「悪くない!ビールのおかわり!」
「おいお前…いい加減に…。」
「…相島さんが意地悪だから今日はとことん飲んでやる!ビール縛りだ!」

 目の前の相島が深くため息をついた。『こいつどうしようもねぇな』という顔をしていても最終的に自分を見捨てることはない人だと知っているからこそこんな風に付き合える。きっと今日の自分と相島の姿を社内の人が見たら誰も信じてはくれないだろう。

「それで結局こうなるんだろ?わかってたけど。」
「あ、るけるし。」
「吐くなよ。」
「吐かないもん。」

 ややぼうっとするが、歩けないほどではない。パンプスのヒールが憎たらしい。ヒールさえなければもっときちんと歩ける。

「おっと。もー…危ないなぁ石ころ。ねー相島さん、靴脱いでいいー?」
「ダメに決まってんだろ。バカか。27歳は道端で靴を脱がない。」
「だって歩きにくいんだよー元々パンプス嫌いだしー。」
「んなこと知らねーよ。いいから脱ぐな。」
「だってじゃないと転んじゃうー。」
「有料で支えてやるよ。」
「え?うわ!」

 左腕を掴まれ、その腕は相島の肩に乗せられた。腰に回った手がぐいっと身体を起こしてくれる。

「相島さ…!」
「これで転ばねーから脱ぐなよ。足怪我するっつの。」
「…う、は、はい。」
「よし。つーかお前んち逆方向ってのしか知らないんだけど。」
「送ってくれるんですか?」
「一人で歩けないバカを見捨てるほど薄情じゃねーけど。」
「…ありがとう、ございます。」

 そうだ。相島は紗弥を見捨てない。どんなチョコを食べていても。