一度帰宅し、荷物を持って再び相島の家に来た。

「お邪魔します。」
「荷物、ソファんとこ置いておくぞ。」
「ありがとう。」
「メシ食ったの？」
「まだー！」
「ラーメンならすぐできるけど。」
「食べる！」
「ハンガーとか適当に使っていいから。」
「ありがとう。」

　相島の部屋に来ることに慣れてきた自分を感じる。ハンガーの場所だって、洗面所のどこに何があるかだってもう分かる。紗弥はさっとスーツを脱いでハンガーにかけ、部屋着に着替えた。早々にメイクも落とさせてもらう。メイクを落とし、洗顔をし、すっきりとした気持ちでリビングに戻る。丁度ラーメンが出来上がったところだった。

「丁度できたとこ。」
「いい匂い～！作ってくれてありがとう。」
「わざわざ来てもらってんだし、こんくらいはするよ。」

　目の前に置かれたどんぶりの湯気だけで、ぐーっとお腹が鳴りそうだ。

「いただきます。」
「うん。」

　相島は紗弥の向かいに座った。片手にはビールが添えてある。平日に飲むのも珍しい。

「…な、なに？」

　視線を感じて、紗弥は視線を上げた。右の口角が上がった相島が口を開く。

「いい食べっぷりだなーと思って。」
「だってお腹空いてたんだもん。」
「腹減ってんのに呼んじまってごめん。」
「美味しいラーメンが食べれたからいいよ。それに、私もモヤモヤしたまま明日一日過ごせそうにないし。」
「はー…ほんと、仕事だってわかってんだけどなぁ、頭では。」
「…仕事だけなんだけどなぁ。」

　紗弥はラーメンをすすりながら、そう呟いた。松下に対して、礼儀正しい後輩であるという感情以外に何もない。…何もないは言いすぎだが、頑張って伸びていってほしいと思う。そこにプライベートな感情は一切ない。