「別に貰わねーけど。」
「え?」
「つか、貰ってねーから。入社してから毎年渡されそうになるけど断ってるんで。」
「え…え!?なんで!?」
「なんでって…別にいらねーし。自分が好きなヤツから貰うなら嬉しいけど、別に他のヤツから貰っても正直どうしたらって思うし。」
「ゼータク者!」
「そーだよ、ゼータク者なんだよ!だから今年はありがたいっつってんだろ?」
「え?」
「今年は正真正銘本命だからな。つーかお前も案外女っつーか、仕事の時あんなサバサバしてんのに、チョコの好み一つ訊けないでいじいじしてんのとかさーギャップ萌えってやつを狙ってんのか?」
「ね、狙ってるわけが…!」
「…だよなぁ。とりあえず14日の会議は頑張れるわ。帰りにくれるんだろ?」
「う…た、多分?」
「期待してる。」

 その期待が、重くもあり嬉しくもある。渡した先に、相島の表情を想像する。

「あ、一個だけ注文していい?」
「う、うん!もちろん!」
「甘さとか形とかそんなん結構何でもいいけど、お前が一緒に食いたいやつにして。」
「え?」
「うちで食うから。どうせなら一緒に食おう。」
「うんっ!」

 好きな人と一緒に過ごすというだけで嬉しいのに、チョコも一緒に食べることができる。それって、もしかしたら相当贅沢なことかもしれない。

「泊まってくってことだからな。お前。」
「あ、は、はい!準備します!」
「まー…次の日仕事だし、寝るだけか…な。」
「え?」
「いや、こっちの話。」
「美味しいの買ってきますね!楽しみが増えた~!」
「喜怒哀楽激しいやつだな、本当に。」
「わっ!」

 急に抱き寄せられて、体勢を崩した紗弥は相島の胸にすぽっと抱かれてしまう。ぎゅっと強く回った腕のおかげで、相島の香りが鼻をいつもよりもくすぐった。

「明日から頑張るわ、仕事。」
「いつも頑張ってるけどね、相島さん。」
「お前もな。」

 紗弥はとびきりの愛しさを込めて、そっと強く抱き返した。

*fin*