「で、何?」
「言いたくない。自分の問題だし。」
「意味わかんな。俺のことで悩んでる時点でお前だけの問題じゃないだろ。意地張ってねーでさっさと言えよ。」

 言い方こそガサツだが、言っていることは優しい。それが、最初から今までの相島だ。だから惹かれた。一緒にいて、落ち着けた。

「…私のリサーチ不足。」
「は?仕事?」
「じゃなくて、相島さんのリサーチ不足。私、相島さんの好きなものって言ったらラーメンくらいしか思いつかない。」
「…全然読めねぇ。何の話だよ。」
「みんな大好きバレンタインデーの話ですー。」
「あ?…あ、あー…はいはい、なるほどな。バレンタインデーがどうしたって?」
「い、一応、か、彼女…だし、渡そうって思ってたの。でも、どんなチョコが好きって訊けなくて。…もっと前からリサーチしておくべきだった!こんな直近に訊いたらもろバレだし、それは格好つかないし…とか考え始めたらもう何も動けなくなっちゃって…睨んでたの。ごめんなさい。」

 一度話し始めたら最後まで話してしまう。相島が聞いてくれる人だとわかっているからできることだ。

「何?結局何が知りたいんだよ、お前。」
「…相島さんは、どんなチョコが好き?」

 紗弥はそれだけ口にするのが精一杯だ。顔は絶対に赤いし、何だか泣きそうだし、何もかも辛い。バカみたいだっていつも思う。だけど、相島の前では余裕なんて本当にないのだ。

「…お前、突然どーしよーもなく可愛い顔すんだよなぁ。」

 くしゃっと笑う、相島が目の前にいる。伸びてきた大きな手が紗弥の頭を優しく撫でた。

「どんなチョコでも大概食えるよ。美味しくいただく。」
「それ、全然答えになってないんですけど!!」

 精一杯の勇気を誤魔化された気がする。

「本命ってだけでありがたいってことだよ。」
「本命なんて毎年いっぱいもらうくせに~!今年だっていっぱい貰うでしょ!?」

 相島はモテる。だから、埋もれてしまうようなチョコは渡せない。そんな小さなプライドも、紗弥に色々なことを訊けなくした。