「いいから。」

 こうなったら相島が折れないことも知っている。でも、紗弥だって折れたくない。

「…私、いわゆる女の子みたいにいい匂いもしないし、柔らかくもないし、…胸もないし、実はお肉まみれですけど。」
「お肉まみれならやわらけーじゃねーか。」
「…そうだけど。」
「デブだろうがガリだろうがお前ならなんでもいいわ。いいから。」

 この言葉には、負けた。

「…やっとかよ。」
「…だって、ほんっと無理なんですよ…。」
「何が。」
「き、緊張してるの、ちゃんと。多分相島さんが思ってるより。私、職場でのイメージと違うってわかってるから。」
「だから、違うお前がいいって言ってるけど。」
「…知ってるけど、…でも、本当に見せるのは違うっていうか。でも…。」

 紗弥はそっと、相島の背中に腕を回した。

「やっぱりぎゅってされるのもするのも、いいね。ストレス減ってる感じがする!」
「…んだよ、そこかよ。」
「相島さん、いい匂いだし。」
「俺はアロマセラピーか。」
「お互いがお互いのアロマだったらいいなって思ってるけどなぁ、結構本気で。」
「まぁお前の胸も当たってるしで、俺にとってもアロマだけど。」
「!!」
「なーに驚いた顔してんだよ。俺が下心のない人間だとでも思ったか。」
「おおお思ってなんか!ないけど!」
「いきなり距離とんなよバカ。」

 後頭部に回った相島の大きな手が紗弥の顔を引き寄せた。そっと重なった相島の唇に、紗弥は目を瞑る暇さえない。

「あああ相島さん!?」
「抱きしめてキスしたくらいで何だよ?初めてってわけじゃねーだろ?」
「あ、相島さんとは…初めて…だし…。」
「あーーーーお前、その返しは卑怯くせーわ。」
「なっ!?なんで!?」
「おまけにその顔の赤さで、お前の可愛さとんでもねぇことになってんぞ。」
「あーーーー見ないで!ほんと無理!だめ絶対!」
「いやいや意味わかんねーし。その顔彼氏に見せねーでどうする?他に誰が見る?」
「誰も見ない!」
「有り得るかんなもん!バカか!いいから俺がいいっつーまで見せろ。」
「あ、やだやだ!バカ!相島さんのバカ!手離して!」
「離すかよ。お前が顔上げるまで閉じ込めとくわ。」

 相島が掴んだ腕をそのまま引いて、紗弥の身体をぎゅっと抱きしめた。

「すげーバクバクいってんな。」
「わかるなら黙っててー!お願いだから!」

*fin*