「俺にだけそういう姿見せてくれてるってわかって、ますます可愛く見えるっつの。バカかよマジで。彼氏もいねーくせに男の前で酔っ払ってんじゃねーよ。超良心的な俺だったからお持ち帰りしてねーんだぞ。」
「は!?お持ち帰りって…!」
「ここまで言えばわかんだろ、つまりそういうことだよ。」

 クールな相島の耳が赤い。多分、今までに一度だって見たことのない相島が目の前にいる。しかし、紗弥の方だって沸騰寸前だ。自分のことではあるが、別のものを見ているのではないかと思えるくらいには超展開で物事が進んでいる気しかしない。

「いやだって…有り得ない…有り得ないですよ。超モテ男の相島さんが…私?こんな、なんだろ、仕事しかできなくて…慣れると甘ったれで、見た目と違って甘い物大好きだし、酒癖もちょっと悪いし、本当は全然かっこよくなんかない…わたし、なのに…。」

 自分のことが嫌いというわけではない。ただ、自信はいつだってもてないでいる。特に恋愛面に関しては。見た目を好きになってもらえること、仕事ぶりを認めて興味をもってもらえることは嬉しい。でも、本当の自分はそうじゃない。それはすごくすごく頑張ってそうなっている私であって、気を抜いたらすぐに違う自分になってしまう。
 いつだって『本当はできない私』を、さらけ出せない。

「…なんでそういう自分を相島さんに見せてもいいって思えたかは、…言葉じゃ説明できない、けど…。でも、だからこそ、ダメダメなとこ見せちゃったからこそ楽だったっていうか…。」
「別にダメダメとか思ってねーし。つーかそんなん俺もだし。」
「え?」
「お前、家でも完璧でいるとか無理だろ、どう考えても。」
「もちろん!当たり前!絶対無理!」
「本当に同意。だから仕事では頑張って、オフんときは頑張れなくなるお前が面白くていいなって思ったんだよ。」

 相島が優しく笑った。ちょっと意地悪な笑みではなく、爽やか営業スマイルというわけでもなく、美味しいものを食べた時にほんの少しだけ見せてくれた笑みだ。

「で、お前はどうなの?」
「え、え!?どうって…な、なにが…。」
「往生際悪いなお前。…知ってたけど。」
「だ、だっていきなりこんな展開で、仕事で脳疲れてるし、もう思考回路無理です。限界…。」
「うわーここにきて仕事を言い訳にする感じ。」
「…う、相島さん、手厳しい。」

 多分、逃がしてもらえない。ここは運悪く密室だ。相島の方がドアに近い。