《side八雲》


泪が遅刻してきた日の放課後。
本当は、俺が家まで送ろうと思ったけど……。


三枝と田崎に誘われてどこかへ行くみたいだったから、声をかけ損ねた。


ホームルームが終わったのに、教室でぼんやり座っていると、前の席の幸人が俺を振り返る。



「なんか、まだ上手くいってないみたいだね」

「幸人……」

「覇気ないな……ちょっと生きてる?」

「……死んでる」

「なんとか生きてるみたいで良かったよ」



泪に向き合うって決めたのに、その機会すら与えてもらえない。

それほど、俺は泪の傷を抉ってしまったんだろう。

一番触れたくないものに触れた。

踏み込んでは行けない場所に、土足で踏み込んだ。


近づき方を間違えれば、泪は離れてく……。

分かってたはずなのに、恐れてたことが現実になった。