あたしはヘマをしないよう、最初から慎重だった。


まず、ターゲットの決め方。


できるだけ目立たなくて、周りから期待もされていないパッとしない子がよかった。


そう言う子はなぜだかある程度までは我慢する所がある。


少しのかゆみ程度なら誰にも相談せずにいるだろう。


そして寄生場所。


あたしたちは小柳サナギの脳と、目と、両腕と、胴体と、両足にそれぞれ寄生していた。


そうする事で成虫になる前に小柳サナギの行動や思考回路をすべて把握することができるからだ。


菊谷克哉のように成虫になった途端性格が変わると怪しまれるのは当然のことだった。


人間に正体がバレる事はあたしたちにとって滅亡の危機にもなりえる。


だから、周囲に怪しまれないようにするため、ひたすら小柳サナギという人間を勉強していた。


そう……これは元から小柳サナギの物語ではない。


これは、小柳サナギを通して見ていた、あたしの物語だったのだ。


さぁ、これからがあたしたちの人生の幕開けよ。


窮屈な体を抜けだして自由を手に入れた。


ここからどこまででも飛び立っていく事ができる。


小柳サナギは蝶になりたがっていた。


それを叶えるのは……あたし。





END