着いたところは前にエルと一緒に行ったレストランだった。

 ここ、知り合いによく会うところなのに大丈夫かな。

 そんなことを思っていても連れてきた男は席についてしまった。

「あ、椅子お引きした方が良かったですか?あまりレディファースをし過ぎるのはお好みじゃないようでしたので。」

 このレストランに着くまでの間にそこまで見抜いたのだろうか。

 いや。エルの知り合いみたいだから結婚相談所の人かもしれない。それなら私の細かい情報を知っていてもおかしくはない。

「いえ。お気遣いなく。カジュアルな場所ですし、そこまでしていただかなくて結構です。」

 聡明な方ですね。と微笑んで言われても、気を許していいのか分からない笑顔だった。

 そんな杏のようすを気づいてか、雑談をすることもなく、ランチの注文だけ済ませると、さっそく本題を話し始めた。

「智哉は元気です。別に智哉に何かあったわけじゃない。」

 ホッと安堵すると「じゃどうして?」と疑問が口を出た。

「智哉がお熱なお客様がどんなかと思いましてね。」

 ふ〜んと品定めするように上から下まで眺めた男はフッと笑った。

 感じ悪っ。お熱って嫌な言い方…。お客様って言ってるんだから私たちがどんな関係か分かっているはずなのに。

「本当はずっと付きっ切りじゃなくていいんです。」

「え?なんのこと?」

 急に話が飛んで頭がついていかなかった。

「担当したお客様とその担当者のことです。智哉がどう説明したか知りませんが…。」

 あぁそのことか。それなら私だって分かってる。四六時中一緒にって意味じゃないと思うと最初に告げたはずた。

「それは分かっています。そう彼に教えてあげたらいいじゃないですか。」

 冷静にそう言ったところで店員の人がテーブルに来て会話が中断する。
 注文したグラタンを店員がテーブルに置いた。

 男は冷めないうちにと杏に勧める。

 すぐに男のチキンソテーが運ばれてテーブルに食欲をそそる匂いを充満させた。
 もちろんグラタンも美味しそうだ。

 そうだ今度はグラタンも作ってあげたいな。でも最近、夜もいないことが多いからな…。
 食事やっぱりエルと食べた方が楽しいや。

 グラタンは美味しいはずなのに味気なくてエルのおにぎりの話を思い出して苦笑した。

 一人で食べた方がよっぽど美味しいかも。

 向かいに座る端正な顔立ちは美味しいものを食べているはずなのに、ぴくりとも動かなかった。

「では…智哉が仕事さえすればうちに住まわせても構わない。そういうことでよろしいですね。」

 え…。驚いたのは違うことを考えていたところに、急に言われたからだけじゃない。
 そりゃ話の流れからそうなるけどさ…。

「では質問を変えます。杏様は智哉と過ごさなくても…というか会えなくても構わないですよね?」

 え…この人、何言っちゃってるの?顔にその思いがそのまま出ていたのかもしれない。苦笑というか、あざ笑うようにこちらを見ている。

「困るんですよね。うちのものに仕事以外のことをさせるのは…。それに早急に運命の人を見つけていただかないと効率が悪くて。」

 ちょっとうんざりしたような声色が含まれていたのは、わざとなのか本心なのか…。

 仕事以外…そうか…そりゃそうだ。でも早く見つけてって、そっちが結婚相談所の社員としてはポンコツのエルを私に寄越したんじゃない。
 どうして私が責められなきゃいけないのよ。

 だんだんイライラしてきた。そこへ別の声がした。