ドキドキなんて、しなかった。 ただ、無理だ、やめてもらわなきゃとだけ思った。 それなのに、 「結婚しよう、美咲」 誠は言う。 ふざけないでほしい。 どの口が、結婚しようなんて言えるのか。 あたしは力を振り絞り、誠を引き離す。 そしてその顔を見上げた。 大好きだった誠の顔。 ……大好き、だった。 「あたし……好きな人が出来た」 誠に告げると、誠は泣きそうな顔になる。 「あの……道端で抱きつかれていた人?」 誠の言葉に頷き、ゆっくりと言葉を発する。 「だからあたしは、誠とは付き合えない」