あまりさんののっぴきならない事情

「ええっ?
 美味しくなかったですかっ?

 マスターの焼いたパンが美味しくないなんて。

 支社長、味覚がおかしいんじゃないですか?」

「……どんな店員だ。
 自分の店の味を不味いと言ったら、客を全否定か」

 いや、パンは美味かった、と海里は言う。

「俺が文句があるのは、お前だ。

 何故、人に任せるっ。
 お前の仕事だろうがっ」

「だって、私より、成田さんの方が支社長の好みに詳しいかと思いまして」

「じゃあ、せめて持ってこいよっ」

「だって、手が離せなかったんですっ。
 それに、成田さんの方がついでに持ってけるし」

「成田、帰るんだったろ。
 遠回りさせて先輩に持ってこさせるとかどうなんだ」

 うっ。
 それは確かに。

 成田さんにこれ以上手伝わせては悪いと思ったし、ひっきりなしにお客様が来ていたので、つい、頼んでしまったが、悪かったな、と思っていると、海里がトドメを刺すように言ってくる。