あまりさんののっぴきならない事情

「いや、言ったんだけどね。
 成田さんの方が犬塚さんのことには詳しいだろうから、好みのパン、二、三個選んで持ってってくださいって」

「クビにしようかな、あの女……」

「ぼうっとしてるように見えて、さすが南条社長の娘、商売上手というか、効率重視というか」

 知ってたのか、と言うと、昨日、叔父さんに聞いた、と言う。

「人として、効率以前に重視することがあると思うがな」
とパンを見ながら呟くと、お前が言うな、と言われてしまう。

「でもまあ、仕方ないだろ。
 あまりはお前が自分のことを好きだなんて知らないんだから」

 その言葉にパンから目を上げ、成田を睨む。

「……いつ俺があまりを好きだと言った」

「言ってないけど。
 他に理由ないだろ。

 一介のカフェ店員を此処まで引っ張ってくる理由がさ」

 黙っていようかと思っていたのだが、仕方なく、海里は、あまりとの見合いの話をしてしまった。