あまりさんののっぴきならない事情

 




 ノックの音がして、海里はノートパソコンから顔を上げた。

「入れ」
と言うと、何故か、寺坂が成田を連れてきた。

 パンと珈琲を手にした成田に、
「……何故、お前が来る」
と言うと、成田は、

「それがあまりが、成田さん、帰るついでに持ってってくださいって言ってきて。
 僕はこれから、下に下りるのに、なにがついでなんだか……」
と愚痴ったあとで、

「でも、パン、もうほとんど売れたな。
 もう一度、持ってきたいくらいだが、うち、自分とこで焼いてるから、もう在庫ないんだよ。

 これ以上持ち出すと店の方が困るから。

 ……なあ、明日から、総菜も売ってみていいか?」
と言ってくる。

「好きにしろ」
と機嫌悪く言うと、

「ほら、シナモンロールとクロックムッシュ。
 お前、好きだったろ」
と成田は言ってきた。

 お前、好きだったろ、という言葉が気にかかり、
「待て。
 これ、選んだの、誰だ」
と訊くと、僕、と言う。

「……選びもしねえのか、あの女」