あまりさんののっぴきならない事情

「ああ、すみません。
 もう少ししたら、店の方も忙しくなるので」
と謝る成田に、あまりは、

「じゃあ、今、売ったらいいじゃないですか」
と言った。

「え、でも、まだ並べてな……」

 ちゃんと見栄えがいいように、素敵な籠が幾つか持ってきてあったようだった。

「大丈夫です。
 目敏い女子の方々は、並べる前から、ケースの中のパンを見て、目星をつけています。

 コンビニに運ばれてきたお弁当を店員さんが棚に並べる前に、チェックするのと同じです」
と言うと、何人かが笑った。

「さあ、皆さん。
 今なら、パンと珈琲をセットで買うと、なんと、成田さんがついてきますっ」

「ついて来ないっ」
と成田は悲鳴を上げたが、パンも珈琲も並べる前からよく売れた。

「あ、数なくなって来ちゃった。

 しまった。
 成田さん、犬塚さんの好みのパン、二、三個選んでください。

 あと、珈琲」

「……なんか僕、めっちゃこき使われてる気がするんだけど、気のせい?」