「何故ですか?」
と訊き返すと、

「カフェはカフェできちんとした指示系統があって、機能してるんだと思うけど。
 会社のそれとは違うと思うのに、貴女は、会社組織ってものをわかってるように見えたから」
と言ってくる。

 いや、それは、あの悪魔のような父親を長年見てきたからですよ、と思っていた。

 自宅に重役を呼びつけて、会社の話をしていることもあるからだ。

「ファミちゃん、ちょっと来て」
と笑顔も見せずに、給湯室の入り口から、秋月は、もう一人の秘書を呼ぶ。

 はい、と神妙な顔で、ファミちゃんと呼ばれた彼女はやってきた。

「秋月さん、電話、いいですかね?」
とそのファミちゃんは、後ろを振り返りながら言う。

「ああ、ご隠居が居るからいいでしょう」

 秋月はちらと室長を見て言った。

 ……ご隠居って。

 まあ、ちょっとそんな雰囲気だが、とぼうっとしたご老体、という風情の室長を遠目に見る。