秘書室の前に戻ってきたとき、寺坂はちょっと困った顔をした。
恐らく、どう指示を出したものかと迷っていたのだろう。
そりゃそうだ。
お茶担当とか言われてもな、と思う。
「どうしましょう、寺坂さん。
私、普段は、どなたに指示を仰げばいいんですかね?」
寺坂ではお茶のことなどわからないだろうと思い、そう訊いてみた。
「そうですね。
お茶のことは、基本、女性秘書の方々に訊くのがいいと思いますが。
では、まあ、とりあえず、支社長にお茶をお願いします。
この時間は支社長室にいらっしゃるはずですから。
秋月さんに……ああ、さっきの秘書の、年が少し上の方の方ですが」
と気を使った言い方を寺坂はしていたが。
少し上もなにも、片方の女性は自分と変わらないくらいの年で、もう片方の人は、自分の母親くらいの年だったような。
だが、女性の年齢の話は危険だ。
寺坂はよくわかっているようで、ものすごく婉曲な言い方をしていた。
「給湯室のことは、秋月さんに伺ってください」



