あまりさんののっぴきならない事情


 


 寺坂の後をちょこまかついていきながら、あまりは、沈黙していると緊張するな、と思っていた。

「あのー」
とその広い背中を見ながら、話しかけてみる。

「寺坂さんは私のこと、ご存知なんですか?」

「はい。
 支社長にお聞きしてましたから。

 お見合いの話があったとき」

 そこで、何故か寺坂は笑いかける。

「南条さん、何故、お見合いの話、断られたんですか?
 支社長を断る理由なんてないように思えるんですか」

 その言葉に、この人、こう見えて、すごく犬塚さんを崇拝してるんだな、と思った。

 何故断ったかなんて、この忠臣、寺坂に言おうものなら、無礼討ちにされてしまうかもしれないと思い、
「そ……それは秘密です」
と言うと、寺坂は、

「秘密ですか」
と大真面目に頷いてくる。

「あ、あのー、寺坂さんって、秘書の方なんですよね」

 話を誤摩化すように、つい、そう訊くと、これまた大真面目に、
「皆様には、用心棒だと思われていますが、秘書です」
と寺坂は答えてきた。

 そ、そうですね。
 私もそう思ってしまいました……。