あまりさんののっぴきならない事情

 



 風呂から出、窓を開けて、リクライニングチェアーで涼むあまりは、字を見ると、落ち着くと言って、その持ってきていたエスペラント語の本を読んでいた。

 気が紛れるらしく、声に出して読んでいる。

「Mi esploros vian pulson.
 脈を取ります」

 自分でか。

「Ĉu vi havas apetiton?
 色欲はありますか?」

「食欲だろうが……」
とついに声に出して突っ込んでいた。

 あまりの頭の上に立ち、
「あるぞ、色欲なら」
と言ってやる。

 覗き込んだあまりの顔は、はは……と笑っていたが、少し楽になったせいか、眠そうだった。

 おいおい。
 まさか、このまま寝るとか?

 なにしに来たんだ。
 いや、社員旅行だが、と思いながらも焦る。

「海里さん……」
と本を下ろしたあまりが、ぼんやりしたまま、窓の外を見て言ってきた。

「いい月ですね」