あまりさんののっぴきならない事情

 



 いや、寄っていこうって、何処に? とあまりは思っていた。

 今の話の流れからいって、あのブティックなのだろうが。

 何故?

 どうして?

 っていうか、この人、入ったことあるの? などと考えているうちに店の前まで来ていた。

 わあー。

 首のないマネキンが小粋に着こなした、大人っぽい服がショーウインドウに並んでいる。

 ……こういうの憧れるけど、私はまだ着こなす自信ないな。

 あ、こっちなら大丈夫そう、と少し可愛らしい雰囲気のスーツを見ていると、海里が、
「行くぞ」
とガラスのドアの前で言う。

 あれ? 少し笑ってたような。

 だが、残像しか見えなかった。

 なんだか貴重なものを見そびれた気分だな、と思いながら、海里にドアを開けてもらって入る。

 此処は自動ドアではないようだった。

 恐らく、いろんな客の好みに合わせているためだと思うが。

 大抵、いいな、と思う店でも、この服は好きじゃないな、と思うものがあるものだが。

 此処にはそれがないな、と思いながら、店内を見回していると、
「あら、海里。
 いらっしゃい」
と台の上にコーディネートされて置いてある服を直していた女がこちららを向いた。