俺は、おい、と言っただけだよな。
必要以上にビクつくあまりを見下ろし、海里は思った。
あまりは自分が見るたび、ネズミが猫にとって食われる寸前っ、みたいな顔をする。
……こんなところでとって食うか、と思いながら、斜め前に見えてきた店を指差した。
品のいい品揃えのブティックだ。
「お前、あの店知ってるか?」
「あ、通るときよく見ます。
素敵ですよね、高いけど」
高いけどって言葉が出るか。
意外と庶民派だな、と思う。
親がしっかりしているのかもしれない。
お嬢様のわりには、贅沢しているようには見えなかった。
服は高そうな仕立てだし、靴もいい革のを履いているが。
鞄は特にブランドものでもなく、その辺で売ってそうな可愛らしい感じだった。
だが、服にも、あまりのイメージにも合っている。
細かいことにはこだわらない性格なのかもな、と思う。
さっき、自分に言われてスケジュールをメモしていた手帳も、
『これ、100均のなんですけど、薄くて使いやすいんですよー』
と部下が見せてくれたのと同じものだった。



