あまりさんののっぴきならない事情

 



 それでは失礼致します、とカフェを出たあまりは、ビルの立ち並ぶ街中を海里と並んで歩いた。

 ど、何処に行くのでしょう。

 明日からの仕事に関係あることなのでしょうか。

 なんとなく無言のまま二人で夕暮れの街を歩く。

 今日が一番心細い感じがするな、と思っていた。

 家を出てから、ひとりで行動することが多くなったが、なんとなくつきまとう寂しさを今日が一番強く感じる。

 ……それはたぶん、横に、このなに考えてんだかわからないイケメン様が居るからだ~っ。

 向こうから来た仕事帰りのOLらしき女性が、まず海里を見たあとで、うらやましげにこちらを見ていった。

 いやいや、貴女。
 なにがうらやましいんですか、と思わず、見知らぬOLに心の中で話しかける。

 ケンブリッジ卒で、この年で支社長のイケメンエリート様に真横を無言で歩かれてごらんなさい。

 しかも、私は、その恐れ多い縁談を理由も言わずに断った女ですよ。

 針のムシロですよっ、と思っていたが、よく考えたら、ただ、横をすれ違っただけの彼女に、そんなことわかるはずもなかった。

 そのとき、
「おい」
といきなり、海里が口を開き、

「はははははは、はいっ」
とあまりは、ビクつきながら返事をした。

 自分でも、『は』が多すぎるっ! と思いながらも。