あまりさんののっぴきならない事情

 海里は口を押さえたまま、
「叫ぶな。
 服部に聞こえる」
と隣の部屋に続く壁を窺いながら言ってくる。

 だんだん夜目に慣れてきて、海里の動きが見えてきた。

 いや、この体勢、ほぼ強姦魔ですが……と思いながら、フガフガと訴える。

「なにもしないって……っ」

「してないぞ。
 これは夢だ」

 そう、しれっと海里は言い出した。

 いやいやいや。
 絶対、夢じゃないですよっ。

 上に乗られて重いですしっ、と思っていると、

「お前は俺が好きで好きでたまらなくて、つい、こういう夢を見てしまったのだ」
とロクでもないことを言ってきた。

 そうか、夢か。
 じゃあ、真夜中に鳴らしてもオッケーだな、と万が一のときに備えて、枕許に潜ませておいた防犯ブザーをつかむ。

 今が万が一のときですっ! と紐を引っ張ろうとしたその手を、また、すぐに払われてしまった。

「ああっ」
と吹っ飛んでいったそれを追おうとすると、

「まだ持ってたのか、小賢しいな」
とその手も押さえ込まれてしまう。