あまりさんののっぴきならない事情

 ……人は何故、すっ転ぶと、辺りを見回し、笑いながら、立ち上がってしまうんだろうな。

 あまりは目を閉じ、思う。

 見合い写真を見たとき思った。

 こんな人が見合いになんか来るわけないから、親御さんが適当に話を進めようとしているだけか。

 私を騙そうとしているのに違いないと。

 形だけの妻になるのも嫌だし。

 私ひとりが本気になるのも嫌だ。

 ……いや、本気になってないですよ。

 今もなってないですよっ、と今、此処には居ない海里に向かい、言い訳のように思ってしまう。

 本気になったところで、マントとかひるがえして言いそうだしな。

『かかったな、あまりっ!』
とか言って。

 ……似合うな、マント、とか思っていると、ドンドンドン、と風呂の戸を叩かれた。

「生きてるか、あまりっ。
 のぼせてひっくり返ってるんじゃないだろうなっ」

 あまりに風呂が長いので、心配して来てくれたようだった。

 大丈夫ですよ、もう~、と思いながら、こういうときは戸は開けないんだな。

 紳士的だな、とうっかり思ってしまった。