あまりさんののっぴきならない事情

 




 布団はお客様用の予備が一応あったが、部屋はワンルームなので、端と端に敷いてみた。

「待て。
 俺はキッチンか」
と言うので、

「私がそちらに寝ます」
と言って、先に入れと言われたので、風呂に入る。

 おお、確かに、洗剤も使っていないのに、つるつるピカピカだ、とあまりは湯船をきゅっきゅっと触って喜ぶ。

 そして、気づいた。

 いかんっ。
 乗せられている!

 このままでは、風呂掃除目当てに結婚してしまうっ、と思ったあとで、
『だから、その程度で流されるのなら、流されろ』
という海里の声が聞こえた気がした。

 あまりは鼻先まで湯に浸かりながら考える。

 それにしても、わからない。

 何故、海里さんは、私に結婚しようなんて言うのやら。

 あんな素敵な人が私にそんなこと言うなんて、嘘で罠に決まってる。

 出会ってから、なにひとつ、いいところなんて見せてないし。

 海里さんが道を歩いたら、みんなが振り返るだろうけど。

 私が歩いてても、振り返られるときは、なんか笑われるときだけだし。

 つまづいたときとか。