あまりさんののっぴきならない事情

「キスしていいか」
と訊いておいて、

「いや、お前のような女は訊いたら駄目だな」
と言っていきなり腕をつかみ、逃げられないようにしてキスしてきた。

 ぼっ、防犯ブザーッ! と思わず、手探りで探そうとするが、鞄をつかんだ手を、見ていないのかと思った海里に払われる。

「だから言ったろ」
と海里が耳許で囁く。

「男なんか部屋に上げたら駄目だって」

 そう言い、もう一度、口づけてきた。

 たっ、助けてっ、大崎さんっ。

 成田さんっ。

 あきづ……

 ……きさんは、絶対、助けないな。

 っていうか、大崎さんも助けないな、とソファに押し付けられ、キスされながら、頭の片隅で冷静に考えていた。

 成田さんは間に合わないしっ。

 そうだ。
 服部半蔵さんっ!

 この人、逮捕してくださいっ。

 流されてしまいます~っ!

 海里に言ったら、いや、そんな簡単に流されるくらいなら、流されろ、と言うところだろうが。

 そのとき、ぴぴぴぴ、と夜に迷惑な警告音が大音量で流れた。

 海里が耳を押さえながら、
「あっ、てめっ。
 ほんとに鳴らしたなっ」
と叫ぶ。