あまりさんののっぴきならない事情

「Mi amas vin.」

 しゃ、しゃべれたのか、エスペラント語。

 そういえば、あのとき訳してはいたけど。

 挨拶程度だからかと思ってた、とあまりは赤くなり、俯く。

「大丈夫か?」
と海里が訊いてきた。

「お前のことだから、旅に出たときの日常会話くらいしか、実は知らないんじゃないのか?

 領収書くださいとか」
と言って笑う。

 俯いているこちらを見つめ、
「……日本語に訳してやろうか」
と囁いてきたので、

「けけけけ、結構ですっ」
と言って飛んで逃げ、ソファに腰をぶつけた。

 いててて、と腰を押さえると、海里はそのソファに手をつき、あまりを見下ろし、言ってきた。

「あまり、愛してるよ……」

 だから訳さないでくださいっ。
 そんな間近でっ。

 イギリスは生真面目で質実剛健な国というイメージが勝手にあったのだが、やはり、日本とは違うのだろうか。

 海里さん、日本人の男は、愛してるよなんて、しゃあしゃあと言いませんっ、と思いながらも、固まる。