あまりさんののっぴきならない事情

 そのとき、美味しさで固まるカフェ ゴルゴン、というフレーズが頭に浮かんだ。

 今、視線だけで私は固まっています。

 男の人のこんな真剣な顔は初めて見た気がします。

 っていうか、その視線が私一人を向いているというのがもう……

 もう……どうしたらいいのか。

 明らかに酒のせいではなく、クラクラしてきた。

 た、助けて、誰か……。

 えーと。

 おにいちゃんっ。

 ははははは、と船の上で、小莫迦にして笑う兄の顔が見えた。

 いや、駄目だ。

 ご隠居っ。

 静かにお茶を啜ってそうだ……。

 大崎さんっ。

 あんた、風呂入って、下着変えたの?
と妄想の中で、大崎が説教してくる。

 はっ。
 入ってませんっ。

 いや、そんなつもりも暇もありませんでしたけどっ、と何故か大崎に言い訳してしまう。

 そのとき、
「……あまり」
と海里が呼びかけてきた。