あまりさんののっぴきならない事情

「そうよ。
 海里の姉の名前は、大崎麻里子。

 だから、私と海里は親戚よ」

 そう……、親戚よね、と口の中で繰り返したあとで、

「そのうち親戚じゃなくなるかもしれないけどねー」
とまた笑い出した。

 やばい。
 なにか触れてはいけない繊細な部分に触れてしまったようだ。

 その異常なテンションに、あまりは後ずさりする。

「そ、それでは失礼致しまして」
とごにょごにょ言いながら逃げようとすると、

「待った」
と首筋に指を入れられ、襟をつかまれる。

 意外に骨ばった手に、何故かゾクリとしてしまった。

「あんた、今から暇?」
と背後から間近に顔を寄せ、大崎は訊いてくる。

「は、はい……。
 あ、いえ」

 なにか不穏なものを感じ、暇ではないと言おうとしたが、遅かった。

「暇なのね」
と鋭い声で断定される。

 全部顔と声色に出てしまう性格なので、見破られたようだ。

 大崎はあまりの手許を見、
「……なに防犯ブザー握ってんのよ」
と言ってくる。