あまりさんののっぴきならない事情

 




 うーむ。
 ……逃げたら怒られるんだろうな、と思いながら、沙耶がやいのやいの言ってくるのを右から左へ受け流していると、
「あまり」
と成田が呼んできた。

「そろそろ、五時半だ。
 上がれ」

 犬塚が来るだろ、と言う。

 なんだか機嫌が良くなかった。

 はい、と言ってマスターと、まだ、いいなーいいなー、と言っている沙耶に挨拶をし、スタッフルームに向かうと、ちょうどそちらに行くところだったのか、成田もついてきた。

 だが、成田は真横を歩いているのに、なにも言わない。

「あのー」
と窺うように見ながら訊いてみた。

「成田さん、もしかして、犬塚さんの会社に出店するの、反対ですか?」

 いや……と言った成田は、
「それはいいことかな、とは思うけど」
と言ったあとで、ぽんぽん、と上から頭を叩いてくれる。

「お局様とかに虐められたら、泣いて帰ってこい。
 俺がとっちめに行ってやるからな」

「はいっ。
 ありがとうございますっ」