あまりさんののっぴきならない事情

 




 なんか来た、と海里は思う。

 ものすごい不自然な動きの人がトレーに載せたカップを運んでくる。

 ハラハラして思わず、自分が取りに行きとりたくなるが、そんな店員は問題があるだろう、と支えたい気持ちを抑え、あまりが到着するのを待った。

「お、お待たせしました……」
と珈琲を差し出す手が震えている。

 なんなんだ、お前は、と思ったが、あまりの緊張が移ったかのように、カップにかけようとしたおのれの指先が震えたのに気づいて、飲まずに手を引いた。

 あまりの顔が見たくて、我慢出来ずに、出社前に来てしまったが。

 いや、お前、おかしいだろう、と思う。

 付き合う前に、こうして緊張するとかアリだが。

 もう関係を持ってしまったのに、何故、逆行して、今、緊張するっ!?

 あとは無言のまま中に戻ろうとしたあまりを別の場所から呼び止める声がした。

「すみません」

 若い男の声だ。

 あまりは、はい、と振り向き、硬いまま行こうとする。