あまりさんののっぴきならない事情

 ああ、仕事の前に珈琲でも一杯とかって?

 うう、余裕だな、と思う。

 私はいつも遅刻ギリギリなのに。

 それに、精神的にも余裕があるんだろうな、と思う。

 私は貴方のせいでいっぱいいっぱいで、珈琲楽しむ余裕もありません~っ、と恨みがましく思いながら、

「マスター、珈琲ひとつ……」
と言うと、こちらを見たマスターに、どうしたの? と笑われた。

 どんな顔で、どんな言い方だったのだろうかな、と思う。

 マスターはチラ、と海里を見、
「そういえば、金曜日、出張についていったんだっけ?
 どうだった?」
と訊いてきた。

「は、はい。
 休ませていただいて、ありがとうございました。

 おかげさまで、空き地でフランス人と話が出来ました……」

 え? なんの仕事? と問われる。

 なんとかその晩、帰れなかったことには触れずに話を終えようとしながらも、頭の大半は後ろに居る海里の方を向いていた。