その一日前、土曜日――。
海里はあまりと別れたあと、職場に来ていた。
支社長室で、鞄の中のものをデスクに出していると、寺坂がノックして入ってきた。
「お前も来たのか。
休みなんだから、ゆっくりしててよかったのに」
と言うと、いえ、と寺坂は言う。
「そういえば、夕べは、どうだった?」
と訊くと、寺坂は何故か、
「は、支社長のお陰で楽しかったです」
と言って頭を下げてきた。
「何故、俺のおかげだ?」
手を止め、問うてみた。
いえ、実は、と寺坂は白状する。
自分とあまりを出かけさせるために、桜田と約束したと嘘をついたのだと言ってきた。
「支社長はおやさしいから、そう言えば、私のような無骨な人間がようやく声をかけられたんだからと思って、遠慮されるだろうと思いまして」
「そうだったのか。
気を使わせてすまんな」
と言うと、
「いえ、お陰で、それを切っ掛けに、本当に桜田さんと出かけることが出来ました」
と言う。
「何処に行ったんだ?」
と訊くと、ちょっと二人で食事に行ったのだと恥ずかしそうに寺坂は言う。



