あまりさんののっぴきならない事情

 ……えーと。
 爽やかな朝食の場がフリーズするようなことを言わないでください、と思っていると、海里が上目遣いにこちらを見て言ってきた。

「お前、すべてをなかったことにしようとしてるだろ」

 いけませんか?

 人間は忘却する生き物です。

 都合の悪いことは忘れるから、人は生きていけるのです。

「……犬に噛まれたと思って諦めます」
と言って、そういえば、犬塚だしな。

 うまいこと言うな、私……。

 はは、と乾いた笑いを浮かべていると、海里が、
「本人を前にして言うなよ。
 っていうか、傷つくし」
とオムレツの方を見ながら言ってきた。

 うっ、とあまりは、つまる。

 そういえば、そうですね。
 あまり全否定しても。

 でも、夕べあったことを事実として認めてしまうと、恥ずかしくて顔も上げていられないのですが。

「……パンッ、取ってきますっ!」
とさも重大事のように言って、あまりは立ち上がった。