あまりさんののっぴきならない事情

 うっ。
 意外に語呂がいい。

『犬塚あまり』

「フロントで、全然違和感を抱かれなかったぞ。
 明らかに夫婦じゃないだろって奴らがそう書くこともあるだろうにな」

 なんか夫婦っぽい雰囲気が漂ってたんじゃないか? と言われ、
「……そんなもの漂わせた覚えはありません」
と呟く。

 卵料理やデザート、それとスープ系のものはバイキングではなかったのだが。

 選べる卵料理の中から、海里はオムレツ。

 あまりは、とろとろスクランブルエッグを選んでいた。

「……欲しいのか」

 あまりの目線を追って、海里が言ってくる。

 あまりの目は、がっちり海里のオムレツを捉えていた。

「いや、めちゃくちゃ迷ったんですよーっ。
 ふわふわオムレツか、とろとろスクランブルエッグかっ。

 いつもは、こういうとき、オムレツなので、今日こそはスクランブルと思ったんですけどっ」
と熱く語ると、

「まあ、今までと変えてみるのはいいことだ。
 ひとつ大人になったことだしな」
と言われる。