あまりさんののっぴきならない事情

 




 朝食は夕べの個室とは違い、大きなガラス張りの広い部屋で、眩しいような山の緑を眺めながら、みんなで食事するようだった。

 手前の庭と借景になっている山がいい感じだなーとぼんやり見ていると、昨日、車で一緒になった老夫婦が、バイキング形式になっているパンやサラダを取りに行くのを見た。

 立ち上がり、
「昨日はどうもありがとうございました。
 ありがとうございました」
と頭を下げる。

 和やかに少し話していると、
「貴女たち、なんだか初々しいけど、新婚さん?」
とおばあさまの方が言ってこられ、海里が勝手に、

「はい」
と答えていた。

「まあー、そうなの。
 いいわねえ。

 私たちもそんな頃があったわよねえ」
と夫に微笑みかけ、少し無愛想にも見えたご主人が無言で頷く。

 ちょっと照れておられるようだった。

 非常に穏やかな時間が過ぎた。

 失礼します、と頭を下げたあとで、笑顔のまま海里を振り向き、
「……なに平然と嘘ついてんですか」
と言うと、海里は、

「嘘じゃない。
 いずれそうなる。

 それに此処の宿帳でも、お前の名前は、犬塚あまりになっている」
とふわふわのオムレツを食べながら言ってきた。