あまりさんののっぴきならない事情

 いやいや、とあまりは言う。

「まず愛がなければ、あんなことはしてはいけないんですっ」

「愛ならあるぞ、最初から」

 はい?

「夕べ言わなかったか?」
と言われるが、ほとんど記憶になく、何故か、竜宮城とカメばかり頭に浮かぶ。

 あとは侍が刀に手をかけ、ナンバ歩きで旅館を素早く移動している映像しか出て来ないのだが、夕べ、一体、なにが!?

 だが、海里には、その謎の映像は見えてはいないので、甘く囁き、抱き寄せてくる。

「なにも心配するな。
 お前は、このまま俺と結婚すればいいんだ」

 愛してるよ、と痺れるような声で、耳許で囁かれ、思わず、

「結構です」
と言ってしまった。

 一瞬の沈黙のあと、海里が、
「……結構ですってなんだ?」
と訊き返してくる。

 だって、この事実を私は闇に葬りたいのです。

 結婚前に、見合いさえしていない人となんてことをっ。

 っていうか、私はずっと身持ちが堅いと信じていたのに。

 何故、こんなことにっ。