あまりさんののっぴきならない事情

 ずいぶんと酒が回ったようだ。

 眠い……と思いながら、俯いて欠伸をすると、額が海里の背中に当たった。

 うーん。
 宿の茶羽織りの匂いがする。

 そう思ったまま、思わず、じっとしていると、海里が、
「前へ進むぞ、倒れるな」
と言ってきた。

 額に体重をかけてしまっていたらしい。

「……あい」
と自分ではしっかりしゃべっているつもりで返事をしたとき、ふわりと身体が浮いた。

「手間のかかる奴だな」
と言う海里が、あまりを抱き上げたようだった。

 あまりに軽々と抱き上げられたので、これは現実なのかな? と思ってしまう。

 だが、海里の顔は確かに目の前にあった。

 初めて見たときから瞳に焼きついている、海里の意思の強そうな目許を見ながら、あまりは呟いた。

「やはり貴方は悪い人です」

「……なんでだ」

「こんなことをされて、今、めちゃくちゃドキドキしています。
 私を騙そうとしてるんでしょう?」

 そう言ったのに、何故か海里は笑っていた。

「いいじゃないか。
 騙されてみろよ」