あまりさんののっぴきならない事情

 




「歩くのは歩けるんだな」
と耳の近くで海里が言った気がする。

 お食事処の個室から戻る途中のようだとあまりは思った。

「全然大丈夫です。
 行進もできますし、ナンバ歩きも出来ますよー」
と今のように腰を捻らず歩く昔の日本人の歩き方をして見せた。

 右手のときは、右足を出して歩くと言われていたが、必ずしもそうではないようなのだが。

 最近では、アスリートが動きに取り入れたりして、また見直されている歩き方だ。

 が――。

「うまく歩けてないし。
 余計酔っぱらっているように見えるが……」
と海里が言ってくる。

「でも、こうして歩いた方が武士は刀が邪魔にならなかったらしいですよ」

「武士か。
 じゃあ、お前がやる必要はまったくないな」
と切り捨てられる。

 っていうか、この人は何故、酔っていないのでしょうかね。

 途中から呑んでなかったとか? と思っている前で、海里が部屋の鍵を開けていた。