あまりさんののっぴきならない事情

「そうなんですかー」
と言いながら、もう妄想の世界から脱却したように氷の器の中の刺身をつつく。

 ちょっと沈黙があった。

「聞いてないだろ、お前、人の話……」

 ええっ? なにがですかっ? とあまりは訊き返す。

 彼は酔っ払い相手に真剣に話すむなしさをまだわかってはいないようだった。

 きっと、今まで彼の周りの人は、酔っても、話くらいは真面目に聞いてくれていたのだろう。

 まあ、酔っていると思っているからこそ、本音でしゃべれているのかもしれないが。

「お前、今、俺、なんつった?」

「初恋の人はお前だ」

「……聞いてるじゃないか」

「いや、イカ、すごく甘いんですけど。
 そうやって騙すんだなーと思って」

「イカ情報を交えるな」

「だって、会ったの、この間ですよ」

「そうだな。
 信じがたいが。

 俺はどうやら、お前の写真を見た瞬間に、一目惚れしたらしい」

「へー」

「聞いてるのか?」

 騙してないぞ、と海里は言ってくる。