あまりさんののっぴきならない事情

「金はあるけど、帰らない夫と、形ばかりのおしどり夫婦を演じる一生なんてごめんです」

「……お前は本当に妄想が好きだな」
と言いながらも、何故か海里は笑っていた。

「本気で好きになって、そんな扱いされたら、泣きますからね、私」

 頭の中では、江戸の貧乏長屋の玄関で、あまりは子どもを背負い、海里に蹴られていた。

「きっとひどい奴なんですよー」

「お前、人のことを語っているかのように言っているが、それ、俺のことだよな……?」

 本人を目の前に語る話とも思えないが、と呟いたあとで、海里が訊いてくる。

「それで、そのお前の妄想の中では、俺のヤバイ交際相手の愛人や二号さんや、初恋の人はどんな感じなんだ?」

「えーとですね。
 マフィアのボスの女とか。

 ……えーと。

 茶道の家元の愛人とか」

「茶道の家元はヤバくないだろ」

「そして、初恋の人は、きっと幼稚園の先生なんですよ」

「残念だったな」
と海里は笑う。

「ひとつ確実に外してるぞ。
 俺の初恋の人は……」

 お前だ、と海里が言った。