あまりさんののっぴきならない事情

 着替えないのか。

 着替えよう。

 着替えるべきだ。

 しまった。
 さっきのあまりの変な活用みたいになってしまった、と思う。

 今にも出て行きそうなあまりに、
「……着ないのか?」
と声をかけた。

 寺坂が桜田を誘えたのに、この俺が、浴衣を着てくれという一言が言えないわけもあるまい、と思って頑張ってみた。

 は? なにがですか? とあまりが顔を上げる。

「浴衣に着替えた方が脱ぎ着が楽なんじゃないのか?」

「あー、そうですね。
 でも、別にいいような」

 相変わらず、大雑把な奴だな、と思っていると、あまりは、ふいに気が変わったようで、

「あ、やっぱり着替えます。
 まだ時間大丈夫ですか?」
と訊いてきた。

 よかった。
 勇気を出してよかった。

 やったぞ、寺坂。

 よかったですね、支社長っ、という寺坂の声が聞こえた気がした。