あまりさんののっぴきならない事情

「待て。
 お前、なんのために此処まで来た」

「タクシー呼んでもらって駅まで戻るって手もありますよ」

「無理やり乗せてもらったんだぞ。
 泊まって代金払ってやらないと」

 いやいや。
 無理やりって感じじゃなかったですよね。

『いいっすよー』
 くらいのかなり軽いノリだった。

 まあ、宿に泊まってくれるから、というのもあるのだろうが。

 なにかお礼をして、帰るという手もあるんですよ、海里さん、と思ったのだが、もう海里は記帳してしまっていた。

 宿の人に連れられ、部屋へと向かう。

 建物の中に何故か流れている川にかかった赤い太鼓橋を渡りながら、
「すごいですね。
 こんな場所にこんな宿があるなんて」
と小声で言うと、前を歩く仲居さんに聞こえていたらしく、笑いながら言ってきた。

「普段ご多忙な皆様に、大自然の中で、なにもかも忘れてゆっくりしていただきたい、というのが、この宿のコンセプトです」

 まあ、携帯も通じないもんなー、と思っているうちに、部屋に案内された。