あまりさんののっぴきならない事情

 




 おお、なんかすごい。

 車に乗せてもらい、楽しく老夫婦と語っているうちに、山の中腹の宿に着いた。

 車ってすごいな、と思う。

 普段はあまり意識していないが、あれだけ歩いたあとなので、妙に感心してしまう。

 恐らく、我々が苦労して歩いた道を、車だと物の十五分くらいで駆け抜けることだろう。

「江戸の人ってすごいですね……」
と呟くと、また、どうした、突然、という目で見られる。

「……江戸以前の人も車なかったからな」
と実は同じことを考えていたのか、海里は言ってきた。

 それにしても、すごい宿だ。

「ひなびてないっ」
と思わず言ってしまい、迎えに出てくれた従業員の人に笑われてしまった。

 秘境の宿というと、なんとなく、ランプの灯りか、昔風の電灯のついた古びた温泉宿のイメージだったのだが。

 ロビーは明るく、いかにも現代アートでございます、というような彫刻が階段付近に飾ってあり、建物は今どきの和風モダン建築そのものだった。

 ふと気づけば、海里は、宿の従業員に連れられて、フロントに行こうとしている。

「あれ? 私たち、此処に泊まるんですか?」