あまりさんののっぴきならない事情

 



「寺坂さん、今日は忙しいの?」
と秘書室に戻った寺坂は秋月に訊かれた。

「支社長について行かなかったけど」

「ああ、いえ。
 特に用事はないんですが」
と言うと、

「あらっ。
 じゃあ、もしかして、気を利かせて、用事があるって言ったの?

 あまりと支社長が出かけるように。

 すごいじゃない。
 寺坂さんとも思えない機転の利き方ね」
と言われる。

 いや……それ、褒めてるんですかね? と寺坂は苦笑いしながら思っていた。

「いやー、実は、あまりさんとのお見合いの話が持ち上がったとき、支社長がスマホであまりさんの写真を見せてこられて。

 見合いなんて嫌だと口ではおっしゃってたんですけど。

 ……すごいニコニコ顔で。

 余程気に入られたらしいなと思って」

 でも、ほんと、あまりさんが支社長を断られたのは想定外でした、と語ると、秋月は、

「まあ、私は、支社長が相手なら、女は絶対断らないと思う、その寺坂さんの心酔っぷりが怖いけど」
と呟いたあとで、

「でも確かに、私でも、若いときにそんな話が来たら、断らないかな。
 ただ、あの子変わってるからねえ」
と笑う。