あまりさんののっぴきならない事情

 頭を下げていると思ったら、少し後ろに座っていた、さっきのおばあさんと目が合ったらしい。

 自分も下げると、笑って下げ返してくれた。

 人の目には俺たちはどう見えてるんだろうな、とふと思う。

 上司と部下。

 恋人……、夫婦とか?

 いや、ないか。

 一緒に居て、沈黙を苦痛に感じるほど、自分たちの関係は、まだ、ぎこちないから。

 家族や親しい友人だと、黙っていても、なにも感じないのに。

 ……大崎とかな、と思う。

 新幹線を降り、少し遅れてついてくるあまりを見ながら、成田の言葉を思い出していた。

『二週間のうちに、あまりがお前のことを好きになるとかないからな』

 あの日見せられた、スマホの中で微笑んでいたあまりが、今、後ろをトコトコ歩いている。

 ほんとにトコトコって感じだな……。

 平和そうで、今はムカつく。

「ほら、早く行け」
と少し足を止め、鞄の角で背中を突くと、何故、いきなり攻撃っ? という顔であまりが振り返った。