あまりさんののっぴきならない事情

 



 半分食べていいですよって、どうしろと言うんだ、と一本丸ごと突き出された羊羹を見ながら海里は思う。

 動かない自分を見て、
「ああ」
と言ったあまりは、いきなり、包装を剥がそうとした。

 いや待て。
 むいてないから食べられないという意味じゃないんだが、と思いながら、羊羹をつかむ。

「俺はいい。
 帰ってから、切って食え」

「そうですか?」
と言いながら、あまりは、それをまた鞄にしまおうとする。

「……重いだろ。
 持ってやろうか」
と言うと、

「えっ?
 大丈夫ですよっ」
と慌てて言ってくる。

「いや、取らないぞ、そんなもの」
と言うと、そんなこと言ってないじゃないですか~、と泳ぐ目線で言ってきた。

 そんなくだらない話をしているうちに、目的の駅に着いていた。

 なんか、あっという間だったな、と思う。

 一人だと時間を持て余すくらい長く感じてしまうのだが。

「降りるぞ、あまり」
と言うと、はーい、とあまりは素直についてくる。