あまりさんののっぴきならない事情

「いや、さっき、帰りがけに草野さんとエレベーターホールで出会ったら、ちょうどよかったと言ってくださったので」

 下のロータリーで待ち合わせたので、そのときは海里は居なかったのだ。

「……総務の草野か」
と海里が呟く。

「自分より目立つと気に入らないとか言って、次々、目についた女性社員に嫌がらせをしていると聞いたが」

「まあ、私は特に目立つようなこともしないし。
 逆らわないからじゃないですか?」

「……そうか」
と言いながら、その目は、逆らわないか? と訴えていた。

 それを無視し、
「はい」
とあまりは羊羹を海里に向ける。

「半分食べていいですよ」
と微笑んだ。