あまりさんののっぴきならない事情

「いいじゃないか、船の旅。
 カジノとかもあって。

 俺は、船旅するほどには、休みはとれないが」

「そうなのですか。
 残念ですね」
と言っていて、気がついた。

 よく考えたら、私がこの人と新婚旅行に行くわけではないので、この人が船に乗るほど休みがとれようが、とれまいが、どっちでもいい話だった、と。

 その間、海里の方はなにを考えていたのかわからないが、同じように沈黙していた。

 そのまま沈黙が続いてしまう。

 困ったな……。

 再び、沈黙に耐えかねた、あまりは鞄の中をごそごそやり、それを取り出した。

「いかがですか? 羊羹」

「羊羹!?」

 しかも、何故、一本丸ごとっ、と言われてしまう。

「よくその鞄に入ったな……」
と呆れたようにあまりの小振りな鞄を見ながら、海里が呟く。

「はあ。
 もともと財布と鍵くらいしか入っていなかったので」

「いつも羊羹持ち歩いてるのか」