あまりさんののっぴきならない事情

 そんな簡単に寝返っていいのか。

 実際のところ、専務はご高齢なので、近々、引退のご予定らしく。

 気候のいい田舎にログハウスなど作って、ソバを打ちたいとか言っておられるので、別に敵ではないのだが……。

「ありがとうございます、ありがとうございます」

 手をつかんだまま俯いて念仏のように繰り返す秋月に、此処でも、また選挙か、と思う。

「昔は今より女は大変だったんですよー。

 本社の総務に居たときも、秘書に移動になってからも。
 お前のメインの仕事はお茶汲みだ、みたいな感じで。

 ありがとうございます、支社長。
 普段、この若造が、とか思っててすみません」

 おい……。

 そこで、あまりがぽつりと呟いた。

「私は嫌いじゃないですけどね、お茶煎れてあげるの。

 皆さん、ほっと一息つかれたときって、どんな人でも笑うじゃないですか。

 うちの父親、たまに会社の人を家に呼ぶんですけど。

 一段落して、父親が席を立ったとき、母に言われて、お茶を持って行くと、ありがとうって、どなたでも微笑まれるんですよ」