あまりさんののっぴきならない事情

 寺坂に至っては、泣き上戸で、
「すみません。すみません。
 ありがとうございます。

 こんにちの自分があるのは、すべて支社長様のお陰様でございます」
というよくわからない敬語でしゃべりながら、両手で自分の手を握り、選挙運動か、というくらい振ってくる。

 寺坂は本来、事務仕事をしたり、上役に気を使ったり、というタイプではないので。

 秘書の生活は息苦しいこともあるのではないかと思うが、よくやってくれている。

「支社長、呑んでないじゃないですかー」
といつも通りマイペースな秋月は、勝手にワインをそそいでくる。

 が、それは日本酒が残ってるグラスだっ、と思っていると、秋月は、

「おっと、今は支社長って言っちゃいけないんでしたね。
 だからって、犬塚っ、私の酒が呑めんのかっ! とは言いませんよ~」
と言って、ケラケラと笑う。

 いや……既に言ってるも同然だと思うが。